彼女をマリアと呼ぶ日まで

独学ピアノ練習記

4日目 成長の実感

 さて、4日目である。

 実はもう4日目にしてピアノの難しさに脱落しそうになっていた。

 仕事が終わったのも12時過ぎで、足が痛く眠気もほんわりで、明日休みだし今日の分は明日でいいんじゃないか? という誘惑がぐわんぐわん襲って来た。

 しかし今日やらないわけにはいかない。一度でも禁を破れば以降も破り、いずれ週に一度くらいは休んでもいいだろうなどと考え出すだろう(もちろん特別な理由があれば止むを得ないことだが)。

 そうなれば崩壊の始まりだ。週1の休みが週2になり、そしてパッタリと手を触れなくなる。おれはいつもそうしてダメになっていったのだ。

 ピアノを覚えたいというのが主な目的だが、この練習にはもうひとつ、おれを変えたいという、考え方によってはメインよりも重要な目的が織り込まれている。この日記だって、毎日まとまった文章を打つことで文章力アップを図る意味合いが含まれている。

 ここで降りたら終わりだ。このピアノがおれの最後の砦なのだ。

 逆に言えば、こんな前途多難どうやっても不可能に感じる絶壁を登りきれればもうなんだってできる気がする。

 やるしかない。おれはやるんだ。やりきるんだ。

 そんな思いで眠たい体を起こし、今日もかわいいエリーちゃんを程よい高さの台に乗せて電源を入れた。

 まずは指慣らし。”お父さんのための〜〜”を開き、指の運動ページを開く。

 昨日もやったが、なんとなくやった方がよさそうなので今日もやってみた。

 すると驚くことに、スルスルと指が動いた。

 ドミソを弾いて右にひとつづつ動かしていく運動、両手でドソとミファをちょんちょん繰り返す運動、ドレミファソファミレドをピロピロ鳴らす運動、これらが昨日より遥かに滑らかに行えた。

 ドミソからレファシに移動するだけでもズレまくっていたのに、今日はぴょんぴょんと走れる。

 ドレミファソファミレドを繰り返そうとすると指が誤作動しまくったり一定のリズムで行えなかったのに、今日はかなりイメージに近い動きをしてくれる。

 成長している! たった1日2日でおれの手はピアノと友達になりかけている!

 1日ほんの1時間しか練習していないにもかかわらずだ!

 そう、やればできる。やればできるのだ。

 まだまともに左右別の動きをすることもできないが、練習すればできる。そう、絶対にできる!

 そう安心したおれは20分ほどで手を動かすことをやめ、残りを楽譜の勉強に充てた。今日はそれでいいだろう。なんせまだ線に並ぶおたまじゃくしの色の意味さえ知らないのだから。

 こんなときネットは便利である。

 なるほど、ト音記号ヘ音記号があって、音符はこういう意味なのか。

 そして楽譜のこの線のところは鍵盤でいうこの白いので、シャープが線についてると黒いのを弾くのか。

 重要だ。ものすごく重要だ。初日にこれを学ぶべきだったんじゃないか? ってくらい重要だ。

 これで一応楽譜が読めるようになった(と思う)。昨日までは姉貴の児童向け教本で練習していたが、明日からは大人向けのやつで練習してみよう。なぜなら子供向けは2つある5本線が両方ト音記号だからだ。

 なんか大人のやつはみんな、上はト音記号、下はヘ音記号で書かれている。大人のやつを弾きたいのなら、姉貴のやつに慣れてはいけない気がする。鍵盤の位置を覚えるために。

 明日からはまた手の練習だ。早く見ないで狙った鍵盤を弾けるようになりたい。

 ひと月かかるか、もっとかかるか。それは定かではないが、いまのおれには「必ずできる」という確信がある。